ふと、思い出した現実に
隼人は溜め息をついた。
13日間という時間の長さと、
いつ解けるか分からない彼女の怒りと、
それにどう対応すればいいか
迷っている自分の不甲斐なさを思って。
発端はなんだったのか。
これと言って説明できるような
原因ではなかった。
引き金を引いたのは
どちらだったのか。
こういうケンカは珍しくないけれど、
いつも、なんとなく
なし崩しに仲直りをしていた気がする。
13日。
顔も合わさず、声も聞かず、メールもない。
電話は出ない、メールに返信はない。
ここのところバーでの仕事が忙しくて、
会いに行く余裕もなかった。
そうして、最初の一週間が過ぎると
今度はどうにも気まずくて、
会いに行くことも、電話をかけることも
できなくなってしまっていた。
「情けないなぁ」
誠人の呆れ顔が浮かぶ。
「兄貴は、ほんと見栄っ張りというか、不器用というか」
そんな言葉に、
途方に暮れながら。
見栄っ張りと
不器用について考察していると、
ポケットに入っているケータイが震えた。
慌てて出れば
「レモン、買ってきて」の一言。
それで電話は終わり。
プープープー
無機質な音を吐き出す機械を見ながら
笑ってしまいそうになるのを堪えた。
そうだ、思い出した。
いつも仲直りは彼女から。
お決まりの言い方で一言。
「レモン、買ってきて」
それは「ごめんね」の言葉。
そしてボクは走り出す。
まだレモンが手に入る店を目指して。
信号待ちもじれったくて
その場で足踏みしながら
レモンを買いに走る。
ナイフを入れた瞬間の
爽やかな酸味の香りが
部屋中に広がり
彼女を包み込むのを想像して、
少しドキドキしながら走った。
【たゆたふ欠片の最新記事】