2007年05月29日

『向日葵がくれたもの』

 誠人の夏休み最期の仕事は
 向日葵の種を取ることだった。

 兄の隼人が朝顔、
 誠人が向日葵。
 父親が決めた当番だ。

 太陽に向かって
 花を開くことが不思議で、
 花びらが茶色くなっていくのを
 少し悲しい気持ちで眺めていたのは
 夏休みが終わる淋しさと
 老いていくことへの恐れだったかもしれない。

 誠人が小学校を卒業するころ、
 向日葵が大好きだった祖母が死んだ。

 盛大なお葬式で並ぶ
 花輪が向日葵のように大きくて
 祖母が喜んでいるように思えた。

 中学生になっても
 高校生になっても
 夏休み最期の仕事は続く。

 大学生になって家を出てからも
 毎年、向日葵が枯れるころには
 家に帰った。
 そして、社会人になって初めての夏。

 向日葵は一際大きく
 太陽に向かって花開き、
 ご丁寧にも父親から

 写メールが届いた。

 『今年も大きな向日葵が咲きました。』

 誠人はそのときはじめて
 祖母を想って泣いた。
 小さな画面いっぱいに咲く
 向日葵の黄色が眩しくて。

 皺の多い手の平や
 白髪混じりの艶のない髪、
 「しょうがないねぇ」の口癖、
 西日の差す部屋で針仕事をする背中、
 鼻緒がゆるくなった草履、
 ちょっと物足りない薄味の味噌汁。

 とたんにたくさんの映像が
 フルカラーで流れ込んでくる。

 向日葵の黄色に負けないくらい
 鮮やかな色で。

 毎年、毎年
 飽きもせず種を取るのは
 もういない祖母のため。

 ここ数年、
 ろくに墓参りもしてないのに。

 夏休みが盆休みになった今年は、
 わざわざ有給を取って帰省するつもりだ。
 しわくちゃの祖母の笑顔を思い出しながら
 返信メールを打つ。

 『過去最高の種が取れることを期待してます。』


展覧会中、展示していた作品ではページが前後していました。
手痛いミスです…。
わざわざ足を運んでくださったみなさんには
本当に申し訳ないです。
今回アップしているものが完成形となります。
posted by しがない物書き椿屋 at 17:22 | 京都 ☔ | Comment(0) | TrackBack(0) | たゆたふ欠片
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